京都府南丹市にて「食道具竹上」を立ち上げ、庖丁コーディネーターとして活動する 廣瀬 康二さんにお会いするために、京都市内にある庖丁店へ。
美味しい料理を作るためには、料理人の技術はもちろんのこと料理人の技術をしっかりと発揮させるための「食道具(料理道具)」が必要になるんだとか。
「庖丁は、”たかが庖丁” “されど庖丁”なんです。」と、話す廣瀬さん。
庖丁の知識と技術を活用し、食材を含め料理をする人の立場に立ち、庖丁選びのアドバイスを行う「食道具竹上」で、お話を聞いてきました。
取材協力:食道具竹上
Contents|目次
「庖丁コーディネート」を実現した庖丁店へ
ご縁ありお話を伺うことになった私ですが、京都に限らず様々なプロの料理人が庖丁を購入し、庖丁の更生修理を依頼をする庖丁コーディネーターがいるお店なんです。「庖丁職人がいる京都の庖丁店って、どんなお店なんだろう・・・」という変な緊張感をもって京都市内の庖丁店へ向かいました。
・・・あれ?
思っていた雰囲気と違う!
ドアを開けると、ふわっと香る木の匂い。木を基調にした店内は、私が持っていた「包丁店」のイメージではなく、刃物を取り扱うお店にも関わらず居心地の良さすら感じる素敵なお店でした。
ずらりと並ぶ庖丁。
あえて見えるようにしたというラボ(作業場)。
そして、お店の奥には人と人とを「道具」と「料理」でつなぐ場として提供している厨房がありました。
ヒアリングから始まる庖丁コーディネート
お店の中にずらりと並ぶ庖丁。
調理する食材はもちろん、同じ食材、同じさばき方でも地域によって庖丁の形(デザイン)が変わってくるんだとか。京料理のように繊細かつ丁寧に調理をするための庖丁、大量の食材をさばくためにスピードを重視した庖丁など、庖丁にも役割があります。
「万能庖丁1丁あれば何でもできる!」
これは、決して間違ってはいません。しかし、料理人が料理にこだわればこだわるほど力を発揮するのが食道具!まさに、「”たかが庖丁” “されど庖丁”」というわけですね。
来店された方々には、まず「どんな食材を使い、どんな料理を作るのか」をヒアリングするところから始まるそうです。
「美味しい料理」と言葉にすると簡単に聞こえますが、調理の技量や技法もさることながら庖丁も大事な要素の1つだと話す廣瀬さん。食材の切り口、切り出し方、京料理をはじめとする割烹料理では特に庖丁1つで見た目の美しさも、美味しさも変わってくるとのこと。
だからこそ、丁寧にヒアリングを行い最適な1丁を料理人と一緒に探していくそうです。
庖丁が決まったら「本刃付け」を
全面ガラス張りで、中が見えるようになっているラボ。庖丁が決まったら、基本的にはその場で本刃付けを行います。
販売されている庖丁は既に食材を切れる状態ではあるそうなのですが、最終調整を行います。歪などがないか細かいチェックを行い、本刃付け(庖丁が本来持っている切れ味を引き出す作業)を行た上で、料理人の手元に送り出すそうです。
このあえて見るようにしたラボは廣瀬さんのこだわりポイント1つ。庖丁という1つの道具にも様々な工程が存在し、職人たちが1つ1つ手仕事で行っている姿を見ていただき、道具への想いや興味をぜひ高めてほしいとのことでした。
「食道具」へのこだわり
今回お話を伺った時間はわずかではありますが、その中でも印象的だった言葉が「食道具」という言葉。
私たちの普段の生活の中で、庖丁にせよフライパンにせよ「1年で使い物にならなくなったけど、安かったし十分!」といった経験をした方は少なくないはずです。しかし、廣瀬さん曰く「道具は、使えば使うほど馴染んでいく。調理器具は、使えば使うほど痛んでいく。」とのこと。
だからこそ「食道具」という言葉にこだわり、責任をもって庖丁を手掛け続けています。
さらに、プロの料理人の庖丁を手掛けるということは、食道具の職人としてのそれ相応の「技術」と「想い」がなければ最高の食道具を造ることはできないと話してくれました。
また、食道具竹上ではブランドに関わらず庖丁の「更生修理(メンテナンス)も行っています。
「ほとんどのご家庭の庖丁(鋼製)は、購入時より切れ味が良くなりますよ!」と話す廣瀬さん。
庖丁は、使っていくうちに歪みやねじれが生じてくる場合があります。庖丁は非常にバランスが重要な道具だそうで、定期的に更生修理を行うことで、庖丁はどんどん馴染んでいくとのこと。
日本は、古来から特に道具へのこだわりがあったはずで、自由に様々な国の料理を手軽に食べられるようになった今の日本だからこそ、日本の食文化を食材だけではなく「食道具」という観点から発信していきたいと話す廣瀬さんでした。
ちなみに、お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、本記事では廣瀬さんの「庖丁コーディネーター」に合わせ「包丁」ではなく「庖丁」という漢字を使っています。
「庖丁」という表記を使う理由についてこんなコメントをいただきました。
「庖」とは調理場、「丁」は人を指す言葉であり、つまり「庖丁刀」とは「調理場で人が使う刀=料理人が使う刀」という意味になります。現在では「包丁」と記載されることがほとんどですが、私は料理人が使う道具を造る仕事をしています。
だからこそ「料理人」をさす「庖丁」をという表記を使い、料理する全ての方々と道具との「繋ぎ手」となる庖丁コーディネーターとして活動しています。
常設されている厨房で庖丁体験
人と人とを「道具」と「料理」でつなぐ場として、様々な料理講座や食のイベントを行っている厨房を常設しています。
京都の料理人の技術を学ぶために色々なエリアの料理人が集まったり、食体験を楽しんでもらうためのイベントなど開催しており、開催すれば満席になってしまうほど人気だそうです。
庖丁はもちろんのこと「食道具」に興味がある方は、ぜひチェックしてみてくださいね。
こだわりの「庖丁」をご家庭でも
基本的にはプロの料理人がお客様になることが多い食道具竹上ですが、ご家庭でもひとつ上の調理体験をしていただけるように竹上の技術を詰め込んだ「ペティナイフ(約18cm)」を用意。
このペティナイフは、竹上の商品の中では「柳刃(柳刃包丁)」にあたる庖丁になります。
柳刃は、お刺身を造る際に使われる代表的な庖丁ですが、小さいサイズは料理人の「ちょっと使いの庖丁」として使用されているそうです。
「プロの料理人の方はもちろん、料理人でなくても庖丁にご興味があればぜひご来店時にご相談ください!」と話す廣瀬さん。店舗で実際にお話を聞いてみるのも楽しいと思いますよ!
まとめ
「庖丁は、”たかが庖丁” “されど庖丁”」
私自身「食道具」という言葉のすべてを理解できているとは思っていませんが、道具の大切さと食文化のつながりについて非常に興味を持った瞬間でもありました。
食道具、奥が深いですね。
庖丁の知識と技術だけでなく、さらに食材を含め料理をする人の立場に立ち、どんな想いで料理をするのかを想像し庖丁を研ぎすましていきます。私たちが最高の庖丁を用意し、料理人が腕を振るって調理を行い、そして様々な方々が美味しい食事を食べる。
全てはつながっていますし、それが豊かな食生活になると思います。